ネコノメソウ

雪がすっかり無くなって自然館がもうすぐ開く,というころになると,よく電話をいただく.「今,八幡高原に花はありますか?」という質問だ.実はこの質問の「花」には,「写真を撮って画にしやすい」とか「珍しい」という修飾語が暗に含まれている.これはとっても難しい質問なのだ.

僕も写真を撮るから,見たことの無い花やきれいな花に出会った時には,やっぱりカメラを持つ手にキアイが入る.でも,キアイが入りすぎるとレンズを通してしか花を見ていなくて,後で思い返して「観察不足」となってしまうことがよくある.そんな出会い方をした花の印象は,往々にして自分の写真から受けるものだけになってしまい,実際に見た(はず)の花から受けた印象はほとんど無い,ということが少なくない.ナチュラリストと写真愛好家の分岐点は,おそらくこの辺りにあるのだろう.出来上がった写真だけを見て,花や鳥の話しをするようになったらおしまいだなぁ・・・.自戒.

ネコノメソウは,ちょうどこのころ満開になる.満開,といっても,萼片も花も緑〜黄緑〜黄色なので「花咲いた」感は少ない.それでも,湿地の歩道を歩いていると鮮やかな黄緑色の群生に目がとまる.電話への回答に出てくることもない花だけど,好い色だと思う.

タムシバ

雲月山の観察会の後,山を下ったところに咲いていた.「タムシバとコブシの違い」について,いつも話題になるのだけど,一番分かりやすいのは,名前の文字数がコブシの方が一文字少ない.その一文字を,コブシは葉で補う.つまり,花の時に一枚葉を付ける.ただ,花が開くと,タムシバも葉を展開するので,開く寸前の蕾を見るのがポイント.その他にも,タムシバの方が花がすっきりしている,標高の比較的低いところに咲く,早く咲く,などあるが,どれも決め手にはならない.花が終わってからは,葉の裏を見ると区別できる.タムシバは白色を帯びる.

モクレン属( Magnolia は,どれも花がきれいだし,香りも良い.タムシバは名前の音が珍しいと思う.

キジムシロ

草地で普通に見られる花.5〜9個の小葉からなる葉が特徴.ミツバツチグリも同所的に見られるのだけど,ミツバツチグリは匐枝を出すので平面的に広がるが,キジムシロは匐枝を出さないので円くなる.雉筵の名前はこの姿から来ている.

山焼きの日にも咲いていたのだけど,今日も数はあまり増えていなかった.春の黄色い花は,小さいけど,目立つ.

ショウジョウバカマ

山焼き後の黒い土の上に,ぽつんと咲いていた.まだ1週間しか経っていないのに,変化の速さに驚く.葉はほとんどが熱の影響を受けていたが,付け根部分は緑色が残っていた.1週間前には,つぼみも地面にくっついていたのだろう.

いつもはあまりクローズアップされることのないショウジョウバカマだが,この日ばかりは主役だった.

ナズナ

雪解けと同時に咲くスプリングエフェメラルが花を終えた頃からサクラが咲き始めるまでの間は,目立つ花が減り,春の中休みといった感がある.だだし,水田では小さな花,いわゆる水田雑草が賑やかに咲いている.このナズナは水田を飛び出して,校庭の砂利の間から芽生えていた.気付くとそこここに小さな白い花がちらばっていた.強い.

ハクモクレン

遠くの山にコブシが目立つようになるころ,加計高校げいほく分校の校庭にハクモクレンが咲いた.九州にいたころ,サクラをはじめとする春先に咲く花は別れを思わせたが,春の遅い芸北では,ほとんどの花が出会いを祝福しているように見える.新学期とともにふくよかに咲く白い花は,学校によく似合う.

ヤブツバキ

ずっと芸北にいると,なかなかツバキの花を見る機会がない.冬の茶花といえばツバキなのだけど,あいにくここはブナクラス.そしてお茶から離れて久しい身には,名残のツバキが新鮮に映った.

行きの車中で「なぜサクラがきれいなのか」という話をしていて,出てきた答えは「葉の無い時に花を咲かせてサクラ色一色に染まるるから」「咲いてすぐに散る姿にはかなさを感じ,咲いた時にはいつも新鮮な気持で見られるから」というのが挙がった.ツバキはこのどちらでもないけれど,やっぱりきれいだと思う.それぞれの花がそれぞれにきれい.理由もそれぞれなのだろうけど,追求しなくても良いのかもしれない.赤・黄色・緑,それだけ.