オオミスミソウ

スプリングエフェメラルと呼ばれる花のなかでも,キンポウゲ科はおもしろい.新潟の学会に出席したときに群生を見る事ができた.オオミスミソウは雪割草と呼ばれ,春の訪れを告げる花として慣れ親しまれている.これはピンクに白が入っている個体.

オオミスミソウの花は変化が多い.これはピンクが強い個体.

この個体はごく淡い紅紫色.

一箇所の自生地だけでもこれだけ多様だけど,このほかに紫などもあるらしい.通りがかりに寄った道の駅でも「雪割草展示会」というのをやっていて,花や色の変化に富んだ鉢植えが並んでいた.変異が多い植物は園芸品になりやすい.そして,盗掘も受けやすい.花が咲き始めると嬉しい気持と同時に不安がやってくる.品評会でも銘を持たずに「山どり」と記された鉢が賞を取っていたが,銘など持たぬ株が花を開き,種を付け,子孫を残す健全な自生地に残ってほしいと思う.

ヤブツバキ

ずっと芸北にいると,なかなかツバキの花を見る機会がない.冬の茶花といえばツバキなのだけど,あいにくここはブナクラス.そしてお茶から離れて久しい身には,名残のツバキが新鮮に映った.

行きの車中で「なぜサクラがきれいなのか」という話をしていて,出てきた答えは「葉の無い時に花を咲かせてサクラ色一色に染まるるから」「咲いてすぐに散る姿にはかなさを感じ,咲いた時にはいつも新鮮な気持で見られるから」というのが挙がった.ツバキはこのどちらでもないけれど,やっぱりきれいだと思う.それぞれの花がそれぞれにきれい.理由もそれぞれなのだろうけど,追求しなくても良いのかもしれない.赤・黄色・緑,それだけ.

ミヤコアオイ

カタクリ→ギフチョウ→カンアオイという図式は,なんとなく出来上がってしまっている感がある.カタクリの里では,年間6回も草刈りをし「雑草」は引き抜いているという.さて,そうして出来上がったカタクリ生育適地は,はたして自生地と呼べるのだろうか?では,どこまでなら「人の手が加わった自然」という言葉が使えるのだろうか?

ミヤコアオイは,花の内側が網目状になっていて,縦向きには15裂の筋がある.カンアオイの仲間では,しばしば花を割らなければ確実な同定ができない.でも,割るとその個体は生殖できない.

花ひとつ見るにも,色々なことを考えさせられる.

ナガハシスミレ

大阪の帰りに見てきたもののもう一つがこのスミレ.しっぽを持ち上げた姿は可愛くも見えるし,威嚇されているようにも見える.でも,小さいから威嚇されてもコワクナイ.やっぱりカワイイ.図鑑にはテングスミレなどとも呼ばれると書いてるけど,これを鼻に見立てるのはすごい想像力.

オダマキとかイカリソウなんかも,こんな風に花の後ろの部分が上に向いているけど,これは何か意味があるのだろうか?上に向いた距が訪花昆虫を制限するため,選択的に残ってきた,なーんて話ができたら面白いのだけど,ちょっと想像が付かない.いや,勉強不足かな.

個体群としてはかなりの大きさで,同所的にタチツボスミレも見られた.春の花を見るのはなかなか難しいけど,会えて良かった.

台場クヌギ

大阪市立自然史博物館の佐久間さんは里山の研究をされていて,つくばでも今回の大阪でも,生態学会でクヌギの話題を提供された.大阪の周辺では,クヌギの材を継続的に取る方法として,根本からある程度の高さまでを残し,その上に萌芽した枝を切っていたらしい.「なるほどなぁ」と感心する知恵だけど,この個体のような姿を見るとちょっとした悲哀を感じないでもない.

これは京都で見たチビ林.ここでも台場クヌギの樹形が見られる.新しい切り株もあったのは,今でも伐採が継続されているからだろうか.同じような樹木利用の方法は広く行われていたようで,東北に行くと「あがりこ」という樹形のブナが見られる.雪のある時期に切っていたため,結果として高い場所で伐採されたとも言えるが,昔の人はおそらく「そうした方が良い」ということを知っていたのだろう.

ちょっとした知識で見える景色が違ってくるのは楽しいことだ.

照葉樹林床のブナ林

大阪の妙見山で見たブナ林.たぶん,林床が照葉樹のブナ林を見たのは初めてだ.第一印象は「スギ林にブナが生えてる・・・」.歩くところが悪かったのかもしれないけど,ブナの密度は低かった.

林床を見てもスギのリターの方が目立つし,アカガシなんかも混ざっていて「硬そう」な印象.普段,苅尾で目にしているのとは全く違った印象だった.林の中には所々にシカの糞が落ちていて,露出したブナの根をかじっている痕も見た.シカがいるなんてフシギ.いろんなブナ林があるもんだ.

もう一つ,妙見山のブナ林が今まで見てきたブナ林と違うのは,すっかり人の領域に取り込まれているということ.英彦山も古くから人が入っているけれど,ブナ林はちょっと奥に入る.山の上には大きなお寺があって,すっかり観光地になっている.これは山頂部なのだけど,簡単にたどり着けるし,構造物もたくさんある.ちなみに三角点は緑色に見える等の右側にある.それでも,ブナがポツポツ残ってる.奇妙な気分になった.

それから,これもビックリしたことの一つ.お寺と関係している建物のようだけど,一階には郵便局があるし,コンサートや婚礼にも使われるらしい・・・.大阪のブナ林は,とにかく最後までビックリさせられっぱなしだったのだ.

イズモコバイモ

中国新聞の記事を読んで,咲いていることを知った花.ちょうど,アズマイチゲの写真を見ていたこともあり,なんとなーく見に行きたい気持があった折,三瓶山の山焼きが延期になって,一日目の夕方まで時間ができたので行ってみた.

新聞記事を見た以外は下調べもせず,大まかな所在地しか分からなかったので,たどり着けるかどうか心配だったが,なんとなくで行き着くことができた.いや,行き着いたというよりも,生育地の立地が良すぎたのだろう.何しろ県道沿いなのだから・・・.

個体数はかなり多く,開花個体も沢山見られた.また,他のユリ科の植物同様,花が咲く前の一枚葉の個体も沢山見られた.写真の個体の根際にある葉は,ほとんどイズモコバイモだ.花の色には変異が多く,花を覗き込んだ時に花弁の付け根近くに見える黒点がかわいかった.

それにしても,この生息地は環境が良い.県道沿いで車通りが多いため,人の目に付きやすく,盗掘されにくい.何よりも,生息地の斜面を挟んで民家があり,その家の方が積極的に保全に取り組んで居られる.翌日が観察会だったこともあり,たまたまそのグループの方お二人と話をすることができた.お二人とも熱心で,心強く感じた.

ただ,ちょっと心配な点が無かったわけでもない.それは,イズモコバイモに最適な環境を作るあまり,他の種が減ってしまったら寂しいな,ということだ.斜面が一面のイズモコバイモに埋もれるのも悪くないのかもしれないが,できればヘテロな環境を残してほしいというのは欲張りだろうか.

ともあれ,ここでイズモコバイモを見ていたおかげで,その後二泊三日の三瓶滞在が,より楽しいものになったのは確かだ.三瓶の山焼きに集まった人たちも,やっぱりイズモコバイモが気になるようで,何度も話題に上った.この個体群はきっと守られるだろう.隠して守るのではなく,広く公開して守ることができれば,それが自然保護の方法としては理想的だと思う.