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花の色は – ページ 16 – 芸北 高原の自然館

クロモジ

落葉広葉樹林の林床で普通に見られる.この木の説明をはじめると「お茶の時,和菓子に付いてくる楊枝」と言われるのだけど,実は,お茶をする人はみんな「菓子切り」という道具を自分で持っているので,お茶会のお菓子にクロモジの楊枝は付いてこない.クロモジの楊枝は「お茶をやっていないお客様のためのもの」なのだ.ただし,菓子器から菓子を取るために添える箸はクロモジで,この箸のことを「くろもじ」と呼んだりする.あ,それから5重の菓子器の場合には,銘々にくろもじが出される.

ともあれ,よく知られた木であることは間違いなく,葉をこすった時の清涼な香りはいつでもうれしい.ただ,その姿が一番きれいなのは,軟らかい新葉と黄色の花が春の陽射しに照らされた時じゃないかなぁ...

フデリンドウ

芸北には春に咲くリンドウが2種類ある.一つはハルリンドウで,もう一つがフデリンドウ.ハルリンドウは,芝生を張ったところだけに見られるので,おそらくシバに付いて移入したものだろう.一方,フデリンドウの方は田の畦など,いろんなところに見られるので,自生と考えられる.この個体も,林道沿いの切り土に生えていた.今までは人家近くでしか見たことが無かったので,落葉広葉樹の落ち葉を割って生える姿がちょっとうれしかった.

フデリンドウは,体の大きさとは不釣り合いなほどに沢山の花を付ける時がある.その姿はちょっとした花束のようで,かわいい.らせんを描く蕾もいい.

イカリソウ

芸北ではトキワイカリソウも見られるけれど,この個体は昨年の葉を残していないのでイカリソウ.葉を開くのとほぼ同時に花を咲かせるが,個体によっては20近くものはなを鈴なりに付けるものもある.花の形がおもしろいので,少ない方が見栄えが良い気がするのだけど,人のために咲かせるわけじゃないからなぁ...

タチツボスミレ

スミレとならんで,日本で最も普通に見られるスミレ.と書いてしまうと簡単だが,タチツボスミレと呼ばれていても,変異がものすごい.遺伝的なものなのか環境からくるものなのかは別として,ちょっと歩くと姿が大きく変わるのだ.これが面白い,という領域に踏み込めたら一流なのだろうけど,僕にとってはなんとも悩ましい.

ここで見たものは,体が大きめで,紫色がきれいだった(写真で再現できるかな?).のり面にもよく群生するので,咲いた時には見事だ.スミレという名前は,音が好いと思う.澄んだ音だけで成る名前.良い名前をもらったものだ.

春の遠足 −アマゴをめぐる生き物のはなし−

美和小学校の児童と一緒に遠足に出かけた.2年前にも同じ遠足に誘って頂いたのだけど,今回も目的地は大暮養魚場.ここでアマゴのつかみ取りをするのだ.もちろん,深いところでは無理なので,ちゃんと浅瀬を作っている.

僕の役割は,道中で動植物のレクチャーをすること.今回も植林地の中を縫う林道を歩いたので,なかなか目をひくものは少なかったのだけど,それでもいくつか花が見られた.ただ,子供達にとっては,途中で見つけたシマヘビの方が興味津々だったようだ.昼寝の最中だったところを捕まえて,胴としっぱの境,排泄口の場所,うろこを見せながらの脊椎動物の進化の話,温度センサーや二股の舌の役割,捕食の話,瞳の形などをざっと話した.まぁ,一番の興味は手触りだったようだけど・・・.子供達が手で触ったり首に巻いたりするのを見て,2年前には近づこうともしなかった先生も,怖々ながら触っていた.いいことだ.

ここまでなら2年前と同じなのだけど,実は,僕が設定した今日のメインは大暮養魚場にある.芸北は,カワシンジュガイという二枚貝の生息南限にあたるのだが,この貝の保全に大暮養魚場が大きく貢献しているのだ.

カワシンジュガイの幼生(グロキジューム)は,アマゴの鰓に寄生するので,アマゴがいなければ個体群は消滅してしまう.農業のための河川改修が進んだ芸北では,河川同士のつながりは分断され,アマゴが健全に生育できるほどの環境はほとんど残っておらず,カワシンジュガイもほとんどの河川で絶滅してしまった.現在は,カワシンジュガイの残された川にアマゴを放流し,カワシンジュガイの個体群の消滅を防いでいるのだ.さらに,カワシンジュガイはアブラボテの産卵先になるので,カワシンジュガイを保護することは,同時にアブラボテを保護することにもつながる.

この遠足で,子供達は芸北に棲む貴重な生き物のこと,生き物同士のつながり,そして,地元の産業が,経済以外の面でも大きな役割を持っていることを知ったはずだ.もちろん,アマゴの味もね:)

アマナ

田んぼの畦に咲く小さなチューリップ. Amana を使うという意見もあるが,Tulipaの方がなんだかうれしいと思う.

日が当たらないと開かないし,咲いている時期は短いしで,なかなかきれいに開いた姿に出会うことは少ない.そもそも,アマナが咲いている畦が少ない.芸北ではわりと見られるけれど・・・.

鱗茎を食用にしたというけど,こんな小さな鱗茎では,掘るのがたいへんだっただろう.それだけ食料を得るのにどりょくしていたということか.すごい.そしてやっぱりかわいい.

ヤドリギ

ずっとずっと見たかった花.これは雄花.図鑑には2〜3月が花期と書いているけど,八幡はもう少し遅いようだ.まだ前年の実がたくさん残っているのに,もう次の準備をはじめている.「冬の間中,実を落とさずにいるのは,鳥散布に有利なのに,何故あまりこうした種が無いのだろう?」という話をした.ミヤマシキミ,ヤブコウジあたりがぱっと思い浮かぶくらいだ.

雌雄別株で,こちらが雌花.花被の中に見える花柱は,小さくて丸くて,かわいい,うれしい.

ネコノメソウ

雪がすっかり無くなって自然館がもうすぐ開く,というころになると,よく電話をいただく.「今,八幡高原に花はありますか?」という質問だ.実はこの質問の「花」には,「写真を撮って画にしやすい」とか「珍しい」という修飾語が暗に含まれている.これはとっても難しい質問なのだ.

僕も写真を撮るから,見たことの無い花やきれいな花に出会った時には,やっぱりカメラを持つ手にキアイが入る.でも,キアイが入りすぎるとレンズを通してしか花を見ていなくて,後で思い返して「観察不足」となってしまうことがよくある.そんな出会い方をした花の印象は,往々にして自分の写真から受けるものだけになってしまい,実際に見た(はず)の花から受けた印象はほとんど無い,ということが少なくない.ナチュラリストと写真愛好家の分岐点は,おそらくこの辺りにあるのだろう.出来上がった写真だけを見て,花や鳥の話しをするようになったらおしまいだなぁ・・・.自戒.

ネコノメソウは,ちょうどこのころ満開になる.満開,といっても,萼片も花も緑〜黄緑〜黄色なので「花咲いた」感は少ない.それでも,湿地の歩道を歩いていると鮮やかな黄緑色の群生に目がとまる.電話への回答に出てくることもない花だけど,好い色だと思う.

タムシバ

雲月山の観察会の後,山を下ったところに咲いていた.「タムシバとコブシの違い」について,いつも話題になるのだけど,一番分かりやすいのは,名前の文字数がコブシの方が一文字少ない.その一文字を,コブシは葉で補う.つまり,花の時に一枚葉を付ける.ただ,花が開くと,タムシバも葉を展開するので,開く寸前の蕾を見るのがポイント.その他にも,タムシバの方が花がすっきりしている,標高の比較的低いところに咲く,早く咲く,などあるが,どれも決め手にはならない.花が終わってからは,葉の裏を見ると区別できる.タムシバは白色を帯びる.

モクレン属( Magnolia は,どれも花がきれいだし,香りも良い.タムシバは名前の音が珍しいと思う.