ミズバショウ

「♪夏が来れば思い出す〜」とはじまる『夏の思い出』は,湿原に対する憧憬を日本人にもたらし,湿原の地位を高めたが,同時に弊害ももたらした.それは,尾瀬をはじめとする東北の高層湿原が湿原のステレオタイプであり,それとは異なる湿原は価値が低いという認識を暗に植え付けたことだ.その結果,各地の湿原にミズバショウが植えられた.ミズバショウは,本来,兵庫県と中部以北に分布するが,今では各地の湿原や親水公園で目にする.正直なところ,植えられたミズバショウは気持ち悪い.花の姿はきれいなのだけど,どうしても「外来植物」として目に映ってしまうのだ.花も僕も不幸な気がする.外部から植物を持ち込まなくても,そこにある自然には歴史があり,価値がある.むしろ,外部から植物を持ち込むことで,生態系の歴史が意味を無くし,価値が無くなることを理解すべきなのではないだろうか.

シマヘビ(黒化型)

春になると様々な動物が活動をはじめる.特に,変温動物は冬には全く活動できないので,姿を見ると季節の到来を強く感じさせる.

カラスヘビというのは体色が黒くなったヘビを指す俗称で,実際にはいくつかの種で見られる変異だ.この個体はシマヘビで,石垣で日向ぼっこしていた.久しぶりにカラスヘビを見て,ちょっと嬉しかった.

ヤマシャクヤク

「立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花」と例えられるように,日本人に好まれる姿をしている.こんな大きな花を付ける草本も珍しい.花もきれいなのだけど,葉の手触りが独特で,ぺとりと張り付いてくるような感触がある.

きれいなだけに,最も盗掘されやすい植物の一つだ.別の所にも書いたけれど,山から植物を持ってかえるのは,きわめて独りよがりな行為だ.乱獲がどのような結果をもたらすかが分かっていなかった昭和の時代ならまだしも,それが分かっている今,自生地の個体群を脅かすような採集は愚行としか言いようがない.

ウワミズザクラ

一見すると慣れ親しんだサクラとはほど遠いが,れっきとしたサクラ属(Prunus)の一種.ヤマザクラに遅れて花を咲かせ,もちろん桜ん坊もつくる.ブドウの房のようになった実は,秋にはツキノワグマの貴重な食料になるようで,種子を大量に含んだ糞をよく見かける.

複葉ではないが,側枝ごと落ちるという特性を持っていて,やはり他のサクラとはひと味違う.共通なのは,花の命が短いことかだろうか.ひっそり咲いて,ひっそり散る.

オオイワカガミ

Kanさんのところに載っていたオオイワカガミを見て,気になったので見に行ったら,ここの生育地ではほとんどがまだつぼみだった.冬にも葉が枯れないと言いながら,右に見えるトキワイカリソウと同様,オオイワカガミも越冬した葉は焼けたような色になる.はたしてこの葉で光合成できるのだろうか,と疑問に思ってしまうが,単に栄養を蓄えるために葉を落とさないだけかもしれない.

2個体だけ咲いている個体を見つけたが,どちらも白花だった.造形が美しい花だと思う.

こちらは桃色花.花茎を持ち上げている個体はたくさんあったので,まもなくきれいな花を見せてくれることだろう.

サクラソウ

今や日本で保全生態学を象徴する花になった感がある.それは保全生態学を進めてきた鷲谷いづみ先生が研究対象とした種であることが大きく,保全生態学の教科書でまず取り上げられるからだ.びっくりしたのは小学校5年生の教科書にも載っていることで,著者はやっぱり鷲谷先生だった.国語の教材で理科的事項まで勉強できるとは一石二鳥だ.

芸北には由来の異なるサクラソウがある.一つは埼玉県あたりを由来として(おそらく)人の手によって持ち込まれたもの.もう一つは自生のものだ.

この写真はサクラソウの自生地のもので,ここでは実に多様な姿のサクラソウを見ることができる.あるものは背が高く,あるものは花弁が細く,あるものはこのように歪曲しながら低く花をつける.できることなら,いつまでもこの多様性を保って欲しい.

ヤマルリソウ

青い花というのは多くないので,青紫色の花に瑠璃草という名前を付けるのは自然なことだろう.白い花があっても「シロバナ」という和名は付けられない.ヤマルリソウは,林縁や道端でしばしば見られるが,見かけるとやっぱりうれしい.かわいい.

コガクウツギ

卯月の頃に咲く白い低木には「ウツギ」と名が付くものが多い.しかし,日本で見られるウツギ属(Deutzia)はわずか7種のみで,その他は姿が似ていても別の属であったり科が違ったりする.コガクウツギも同じユキノシタ科だが,アジサイ属(Hydrangea)の植物で,ウツギと樹形が似て萼(がく)のあるガクウツギの小型のもの,と,ウツギ(Deutzia crenata)からは少し離れる.

まだ咲きはじめのためか,装飾花が淡い緑色を帯びていた.装飾花の数は数個から時には1個のみで,アジサイ属の中では最も地味な部類に入るのではないだろうか.

ヤシャゼンマイ

ず〜っと見たかったシダ.名前を知ったのは大学4年の時で,先輩が「すっきりしててきれい」と言っているのを聞いてからは「憧れの植物」だった.そんなわけで,一目見てすぐに「コレダ!」と分かったのだけど,同行した友人は「別に珍しいもんじゃないやろ」という冷静な答え.確かに渓畔林を調査していたら出てくるだろうけどね・・・.僕にとってはとてもシアワセな出会いだった.思いがけない出会いが一番うれしい.逆に「見に行くぞ!」と気持を盛り上げすぎると,現地で意味もなく空虚な気持になったりして,そこのところのさじ加減が難しい.

とにかく,一番長い間気になっていた,と言っても過言ではない植物を見ることができた.胞子葉を付けたものもあったが,あえてこの写真で紹介した.小葉の付け根が広がるゼンマイと異なり,ヤシャゼンマイは小葉が被針形になる.このため(先輩の言葉どおり)すっきりした印象を受ける.色も彩度がすこし高くて明度が低い緑で,これも好い色.

出会い方はとても大切だと思う.ヤシャゼンマイは良い形で見つけることができて良かった.これがあるから山歩きは楽しい.