目が覚めて,次第に感覚が戻ってくると,パラパラと屋根を打つ音に気付いた.「雨かぁ・・・」.様々なことが頭の中を過ぎる.準備不足という観念にとらわれているので,ほっとした気持もあり,他の仕事に手を付けられるという気持もあり,お天気だけはどうしようもないと言いながら残念な気持もあった.が,天気予報を見てみると,8日[雨→晴],9日[晴].まだすっぽりと雲の中だけど,さてさて,どうなるか...
花の色は
遅い雪
ナガハシスミレ
大阪の帰りに見てきたもののもう一つがこのスミレ.しっぽを持ち上げた姿は可愛くも見えるし,威嚇されているようにも見える.でも,小さいから威嚇されてもコワクナイ.やっぱりカワイイ.図鑑にはテングスミレなどとも呼ばれると書いてるけど,これを鼻に見立てるのはすごい想像力.
オダマキとかイカリソウなんかも,こんな風に花の後ろの部分が上に向いているけど,これは何か意味があるのだろうか?上に向いた距が訪花昆虫を制限するため,選択的に残ってきた,なーんて話ができたら面白いのだけど,ちょっと想像が付かない.いや,勉強不足かな.
個体群としてはかなりの大きさで,同所的にタチツボスミレも見られた.春の花を見るのはなかなか難しいけど,会えて良かった.
台場クヌギ
大阪市立自然史博物館の佐久間さんは里山の研究をされていて,つくばでも今回の大阪でも,生態学会でクヌギの話題を提供された.大阪の周辺では,クヌギの材を継続的に取る方法として,根本からある程度の高さまでを残し,その上に萌芽した枝を切っていたらしい.「なるほどなぁ」と感心する知恵だけど,この個体のような姿を見るとちょっとした悲哀を感じないでもない.
これは京都で見たチビ林.ここでも台場クヌギの樹形が見られる.新しい切り株もあったのは,今でも伐採が継続されているからだろうか.同じような樹木利用の方法は広く行われていたようで,東北に行くと「あがりこ」という樹形のブナが見られる.雪のある時期に切っていたため,結果として高い場所で伐採されたとも言えるが,昔の人はおそらく「そうした方が良い」ということを知っていたのだろう.
ちょっとした知識で見える景色が違ってくるのは楽しいことだ.
照葉樹林床のブナ林
大阪の妙見山で見たブナ林.たぶん,林床が照葉樹のブナ林を見たのは初めてだ.第一印象は「スギ林にブナが生えてる・・・」.歩くところが悪かったのかもしれないけど,ブナの密度は低かった.
林床を見てもスギのリターの方が目立つし,アカガシなんかも混ざっていて「硬そう」な印象.普段,苅尾で目にしているのとは全く違った印象だった.林の中には所々にシカの糞が落ちていて,露出したブナの根をかじっている痕も見た.シカがいるなんてフシギ.いろんなブナ林があるもんだ.
もう一つ,妙見山のブナ林が今まで見てきたブナ林と違うのは,すっかり人の領域に取り込まれているということ.英彦山も古くから人が入っているけれど,ブナ林はちょっと奥に入る.山の上には大きなお寺があって,すっかり観光地になっている.これは山頂部なのだけど,簡単にたどり着けるし,構造物もたくさんある.ちなみに三角点は緑色に見える等の右側にある.それでも,ブナがポツポツ残ってる.奇妙な気分になった.
それから,これもビックリしたことの一つ.お寺と関係している建物のようだけど,一階には郵便局があるし,コンサートや婚礼にも使われるらしい・・・.大阪のブナ林は,とにかく最後までビックリさせられっぱなしだったのだ.
棚田の雪解け
アテツマンサク
三瓶から帰ってきて芸北に入ると,谷沿いにアテツマンサクが目立ってきた.本当は行く時から咲いていたのだけど,往路というのはなんとなく気が急いているので通り過ぎたのだ.こんな風に,咲いてるのは分かってるのだけど「また今度」と思いながら撮り逃した花とか光景は数知れない気がする.今回は帰りに立ち止まれたので良かった.
三瓶で宿泊したセミナーハウスの近くにも,マンサクとベニマンサクが咲いていた.特に,ベニマンサクは初めて見た(と思う)ので,ちょっと嬉しかった.ただ,二つの花を見た感想は「やっぱりアテツマンサクがキレイ」.いや,これは親バカ(?)ではなくて,ちゃんと理由がある.マンサクやベニマンサクは萼片が有色なので,萼片が黄色のアテツマンサクに比べて花が濁って見えるのだ.彩の無い春の山の中では,アテツマンサクの方がより目を引くだろう.ただ,茶室に置くならアテツマンサクよりもマンサク,マンサクよりもベニマンサクに軍配が上がるかな.ま,そんな風に勝手に考えられるのが楽しいところですね.花はそんな思いにお構いなしに咲いているのでしょうが・・・.
三瓶山西の原の野焼き
野焼きを見たのはこれが初めてではない.二年前に深入山で見た野焼きは,どちらかというと「迫力ないなー」という感想だった.燃えている近くに行って写真を撮ったりしたのだけど,足下でチロチロと燃えている写真しか残っていない.ただし,これは僕が下の方しか見なかっただけで,時間が経つと山の上の方で大きな炎が上がっていた.そんなわけで,今回は初めて「間近で」山焼きを見た.
三瓶山の野焼きは大田市が主催しており,50名のボランティアを募集して行われる.僕もボランティアで参加し,背中には「ジェットシューター」という消化のための放水具が付いた水袋を背負った.僕の配置されたのは1班で,なんと最初に火を付ける所を見ることができた.当日はお天気で,付けた火はみるみる燃えていく・・・と思っていたら,同じ班にボランティアで参加している人たちが炎に巻かれそうになっていた.前日も,当日も,「火は危険です」と繰り返し説明されていたが,ここまで早いとは想像できなかった.なにしろ深入山の記憶があるので,なめていたのだ.反省.その後は炎がどちらからどちらに向かっていくのか,というのが次第に分かってきて,山焼きが十分計算された上で行われていることを実感した.当たり前のことだけど,一度燃えた場所はもう燃えないので,このように炎に近づくこともできる.炎を制御できれば良いのだけど,これを逃がしてしまったら本当にたいへんなことになるなぁ.
4月9日には,いよいよ雲月山の番だ.心配事はいろいろあるけれど,三瓶の経験は活かされるだろう.地元の人たちも付いているし,ボランティアの人たちもたくさんいる.楽しみだ.
イズモコバイモ
中国新聞の記事を読んで,咲いていることを知った花.ちょうど,アズマイチゲの写真を見ていたこともあり,なんとなーく見に行きたい気持があった折,三瓶山の山焼きが延期になって,一日目の夕方まで時間ができたので行ってみた.
新聞記事を見た以外は下調べもせず,大まかな所在地しか分からなかったので,たどり着けるかどうか心配だったが,なんとなくで行き着くことができた.いや,行き着いたというよりも,生育地の立地が良すぎたのだろう.何しろ県道沿いなのだから・・・.
個体数はかなり多く,開花個体も沢山見られた.また,他のユリ科の植物同様,花が咲く前の一枚葉の個体も沢山見られた.写真の個体の根際にある葉は,ほとんどイズモコバイモだ.花の色には変異が多く,花を覗き込んだ時に花弁の付け根近くに見える黒点がかわいかった.
それにしても,この生息地は環境が良い.県道沿いで車通りが多いため,人の目に付きやすく,盗掘されにくい.何よりも,生息地の斜面を挟んで民家があり,その家の方が積極的に保全に取り組んで居られる.翌日が観察会だったこともあり,たまたまそのグループの方お二人と話をすることができた.お二人とも熱心で,心強く感じた.
ただ,ちょっと心配な点が無かったわけでもない.それは,イズモコバイモに最適な環境を作るあまり,他の種が減ってしまったら寂しいな,ということだ.斜面が一面のイズモコバイモに埋もれるのも悪くないのかもしれないが,できればヘテロな環境を残してほしいというのは欲張りだろうか.
ともあれ,ここでイズモコバイモを見ていたおかげで,その後二泊三日の三瓶滞在が,より楽しいものになったのは確かだ.三瓶の山焼きに集まった人たちも,やっぱりイズモコバイモが気になるようで,何度も話題に上った.この個体群はきっと守られるだろう.隠して守るのではなく,広く公開して守ることができれば,それが自然保護の方法としては理想的だと思う.
オウレン
今年は本当に雪が遅くまで降る.この日も,雷を伴った霰のような雪で,「寒い寒い」と言いながら仕事をしていた.林の中の雪はだいぶ解けいたのだけど,実はまだオウレンの開花確認はしていなかった.雪が降ったから入ってみようと思うのも不思議なものだが,人の心なんてそんな風に出来ているのかもしれない.そうでなきゃ理不尽なんて言葉は生まれないはずだし.
ともあれ,やっぱりもう咲いていた.ぽつり,またぽつりという感じで,10株くらい確認した.どれも小さい株ばかりだったけど,これから大きくなるのか?それとも小さい花しか咲かせられないような個体は早く咲くのか?小さい花しか付けられないような個体は,大きな花と同時に咲くと目立たないので,効率的に訪花昆虫を寄せるために早く咲く,なんてことはないのかな.うーん,勉強不足.個体のマーキングして,開花時期と結実率と昆虫の訪花状況を調べればお話にはなりそうだけど,きっとだれかやってるなぁ.中学校か高校の自由研究にできそうだけど,日本のカリキュラムだとちょうど「ブランク」ができる時期だなぁ.ムリか.
オウレンが咲くと,今年もまた始まる,という気になる.
春が来た.