ユリ科の中でも体が大きいことに関してはピカイチで春先の芽吹きからよく目立つ.地面から出てきたと重うとグングン生長し,葉が傷まないうちに大きくなるのできれいに見える.湿地生の植物であることは間違いないが,ほんのちょっと湿ったところでも群生する.写真の場所も特に湿地というわけではないが,たくさんの個体が林内に突然現れて驚いた.
春 -home-
エンレイソウ
カンスゲ
ホザキヤドリギ
ニョイスミレ
スミレの仲間は見分けが難しいけれど,これは芸北では見分けやすいもののひとつ.タチツボスミレよりも少し小型だが,群生するので目に付きやすい.田の畦や造成した庭などにも見られる.花は白色にすみれ色のすじが入り,花弁が左右に張り出す.かわいい.
ミヤコアオイ
カンアオイの仲間は江戸時代に多くの品種が見出され,今日でも園芸の1ジャンルとして残っている.葉の模様や花の色,萼片の数などに変異が多いので,亀甲紋,雪白紋,素芯など,多くの品種が作られている.この写真は(たぶん)亀甲紋と呼ばれるタイプ.同所的に生えていても,わずかに見た目が異なる.園芸種になるはずだ.
カンアオイの種はアリ散布で,種子にはエライオソームと呼ばれる脂肪・アミノ酸・糖などを含む付属物が付いている.アリはこのエライオソーム欲しさに種を巣に運び,エライオソームだけを食べて,種子は放置される.こうしてカンアオイは分布を拡大しようとするのだ.ただ,ある試算では1kmを移動するのに1万年かかるというから,この試算が正しければ気の長いはなしだなぁ.試算が正しければ,だけど.エライオソームはカンアオイだけでなく,スミレ,カタクリ,ムラサキケマン,フクジュソウ,ヒメオドリコソウ,カタバミなど,様々な科の植物で見られ,これらの植物を「アリ散布植物」と呼ぶ.
カンアオイ属の花は地面に埋もれたように咲くので,普通は目立たない.その花の変異を楽しむのだから,日本の園芸って奥が深い.花には花弁が無く,3個の肉質の萼片が筒状になっている.花弁が無いのに離弁花というのも不思議な気がするが,それはさておき,カンアオイ属の種を分類するのは,この花がポイントになる.このあたりではサンヨウアオイとミヤコアオイが多いが,サンヨウアオイは萼筒が6陵に膨らんでボコボコして見えるのに対し,ミヤコアオイの萼筒はまるく見える.内面には縦に15個の隆起腺がある.サンヨウアオイの縦の隆起腺は6個.
こちらはほんの2mほど離れたところにあった個体.葉の模様はまったく違うけど,やっぱりミヤコアオイで,花のつくりは同じ.
ミズバショウ
「♪夏が来れば思い出す〜」とはじまる『夏の思い出』は,湿原に対する憧憬を日本人にもたらし,湿原の地位を高めたが,同時に弊害ももたらした.それは,尾瀬をはじめとする東北の高層湿原が湿原のステレオタイプであり,それとは異なる湿原は価値が低いという認識を暗に植え付けたことだ.その結果,各地の湿原にミズバショウが植えられた.ミズバショウは,本来,兵庫県と中部以北に分布するが,今では各地の湿原や親水公園で目にする.正直なところ,植えられたミズバショウは気持ち悪い.花の姿はきれいなのだけど,どうしても「外来植物」として目に映ってしまうのだ.花も僕も不幸な気がする.外部から植物を持ち込まなくても,そこにある自然には歴史があり,価値がある.むしろ,外部から植物を持ち込むことで,生態系の歴史が意味を無くし,価値が無くなることを理解すべきなのではないだろうか.