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春 -home- – ページ 4 – 芸北 高原の自然館

バイケイソウの群生

ユリ科の中でも体が大きいことに関してはピカイチで春先の芽吹きからよく目立つ.地面から出てきたと重うとグングン生長し,葉が傷まないうちに大きくなるのできれいに見える.湿地生の植物であることは間違いないが,ほんのちょっと湿ったところでも群生する.写真の場所も特に湿地というわけではないが,たくさんの個体が林内に突然現れて驚いた.

エンレイソウ

とても特徴的な姿をしている.3輪生する大きな葉の上にちょこんと乗った花は3数性で,3つの外花被片,6陵の子房,6個の雄しべ,3裂する柱頭からなる.内花被片はふつう見られない.ユリ科では萼片と花弁が同じ形をしていることが多いので,どちらも花被片と呼び,萼片由来のものを外花被片,花弁由来のものを内花被片と呼ぶ.名前もおもしろいし形もおもしろい.一度覚えたら忘れない花.

ホザキヤドリギ

自然館の前には2本のコナラが並んで生えているのだけど,1本は全くヤドリギが無く,1本はたくさんのヤドリギが着生している.ヤドリギが着生している方のコナラには,芸北で見られる3種のヤドリギが全て見られる.すなわち,ヤドリギ,アカミヤドリギ,ホザキヤドリギだ.ホザキヤドリギは,図鑑には「中部地方以北に分布」と書かれているが,昨年,八幡でも見つかった.落葉性のヤドリギで,今は新緑の季節.赤い新枝と相まって,美しい.点前はヤドリギ,奥にはコナラの葉が見える.

ニョイスミレ

スミレの仲間は見分けが難しいけれど,これは芸北では見分けやすいもののひとつ.タチツボスミレよりも少し小型だが,群生するので目に付きやすい.田の畦や造成した庭などにも見られる.花は白色にすみれ色のすじが入り,花弁が左右に張り出す.かわいい.

ミヤコアオイ

カンアオイの仲間は江戸時代に多くの品種が見出され,今日でも園芸の1ジャンルとして残っている.葉の模様や花の色,萼片の数などに変異が多いので,亀甲紋,雪白紋,素芯など,多くの品種が作られている.この写真は(たぶん)亀甲紋と呼ばれるタイプ.同所的に生えていても,わずかに見た目が異なる.園芸種になるはずだ.

カンアオイの種はアリ散布で,種子にはエライオソームと呼ばれる脂肪・アミノ酸・糖などを含む付属物が付いている.アリはこのエライオソーム欲しさに種を巣に運び,エライオソームだけを食べて,種子は放置される.こうしてカンアオイは分布を拡大しようとするのだ.ただ,ある試算では1kmを移動するのに1万年かかるというから,この試算が正しければ気の長いはなしだなぁ.試算が正しければ,だけど.エライオソームはカンアオイだけでなく,スミレ,カタクリ,ムラサキケマン,フクジュソウ,ヒメオドリコソウ,カタバミなど,様々な科の植物で見られ,これらの植物を「アリ散布植物」と呼ぶ.

カンアオイ属の花は地面に埋もれたように咲くので,普通は目立たない.その花の変異を楽しむのだから,日本の園芸って奥が深い.花には花弁が無く,3個の肉質の萼片が筒状になっている.花弁が無いのに離弁花というのも不思議な気がするが,それはさておき,カンアオイ属の種を分類するのは,この花がポイントになる.このあたりではサンヨウアオイとミヤコアオイが多いが,サンヨウアオイは萼筒が6陵に膨らんでボコボコして見えるのに対し,ミヤコアオイの萼筒はまるく見える.内面には縦に15個の隆起腺がある.サンヨウアオイの縦の隆起腺は6個.

こちらはほんの2mほど離れたところにあった個体.葉の模様はまったく違うけど,やっぱりミヤコアオイで,花のつくりは同じ.

ミズバショウ

「♪夏が来れば思い出す〜」とはじまる『夏の思い出』は,湿原に対する憧憬を日本人にもたらし,湿原の地位を高めたが,同時に弊害ももたらした.それは,尾瀬をはじめとする東北の高層湿原が湿原のステレオタイプであり,それとは異なる湿原は価値が低いという認識を暗に植え付けたことだ.その結果,各地の湿原にミズバショウが植えられた.ミズバショウは,本来,兵庫県と中部以北に分布するが,今では各地の湿原や親水公園で目にする.正直なところ,植えられたミズバショウは気持ち悪い.花の姿はきれいなのだけど,どうしても「外来植物」として目に映ってしまうのだ.花も僕も不幸な気がする.外部から植物を持ち込まなくても,そこにある自然には歴史があり,価値がある.むしろ,外部から植物を持ち込むことで,生態系の歴史が意味を無くし,価値が無くなることを理解すべきなのではないだろうか.

シマヘビ(黒化型)

春になると様々な動物が活動をはじめる.特に,変温動物は冬には全く活動できないので,姿を見ると季節の到来を強く感じさせる.

カラスヘビというのは体色が黒くなったヘビを指す俗称で,実際にはいくつかの種で見られる変異だ.この個体はシマヘビで,石垣で日向ぼっこしていた.久しぶりにカラスヘビを見て,ちょっと嬉しかった.

ヤマシャクヤク

「立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花」と例えられるように,日本人に好まれる姿をしている.こんな大きな花を付ける草本も珍しい.花もきれいなのだけど,葉の手触りが独特で,ぺとりと張り付いてくるような感触がある.

きれいなだけに,最も盗掘されやすい植物の一つだ.別の所にも書いたけれど,山から植物を持ってかえるのは,きわめて独りよがりな行為だ.乱獲がどのような結果をもたらすかが分かっていなかった昭和の時代ならまだしも,それが分かっている今,自生地の個体群を脅かすような採集は愚行としか言いようがない.