ウワミズザクラ

一見すると慣れ親しんだサクラとはほど遠いが,れっきとしたサクラ属(Prunus)の一種.ヤマザクラに遅れて花を咲かせ,もちろん桜ん坊もつくる.ブドウの房のようになった実は,秋にはツキノワグマの貴重な食料になるようで,種子を大量に含んだ糞をよく見かける.

複葉ではないが,側枝ごと落ちるという特性を持っていて,やはり他のサクラとはひと味違う.共通なのは,花の命が短いことかだろうか.ひっそり咲いて,ひっそり散る.

オオイワカガミ

Kanさんのところに載っていたオオイワカガミを見て,気になったので見に行ったら,ここの生育地ではほとんどがまだつぼみだった.冬にも葉が枯れないと言いながら,右に見えるトキワイカリソウと同様,オオイワカガミも越冬した葉は焼けたような色になる.はたしてこの葉で光合成できるのだろうか,と疑問に思ってしまうが,単に栄養を蓄えるために葉を落とさないだけかもしれない.

2個体だけ咲いている個体を見つけたが,どちらも白花だった.造形が美しい花だと思う.

こちらは桃色花.花茎を持ち上げている個体はたくさんあったので,まもなくきれいな花を見せてくれることだろう.

サクラソウ

今や日本で保全生態学を象徴する花になった感がある.それは保全生態学を進めてきた鷲谷いづみ先生が研究対象とした種であることが大きく,保全生態学の教科書でまず取り上げられるからだ.びっくりしたのは小学校5年生の教科書にも載っていることで,著者はやっぱり鷲谷先生だった.国語の教材で理科的事項まで勉強できるとは一石二鳥だ.

芸北には由来の異なるサクラソウがある.一つは埼玉県あたりを由来として(おそらく)人の手によって持ち込まれたもの.もう一つは自生のものだ.

この写真はサクラソウの自生地のもので,ここでは実に多様な姿のサクラソウを見ることができる.あるものは背が高く,あるものは花弁が細く,あるものはこのように歪曲しながら低く花をつける.できることなら,いつまでもこの多様性を保って欲しい.

ヤマルリソウ

青い花というのは多くないので,青紫色の花に瑠璃草という名前を付けるのは自然なことだろう.白い花があっても「シロバナ」という和名は付けられない.ヤマルリソウは,林縁や道端でしばしば見られるが,見かけるとやっぱりうれしい.かわいい.

コガクウツギ

卯月の頃に咲く白い低木には「ウツギ」と名が付くものが多い.しかし,日本で見られるウツギ属(Deutzia)はわずか7種のみで,その他は姿が似ていても別の属であったり科が違ったりする.コガクウツギも同じユキノシタ科だが,アジサイ属(Hydrangea)の植物で,ウツギと樹形が似て萼(がく)のあるガクウツギの小型のもの,と,ウツギ(Deutzia crenata)からは少し離れる.

まだ咲きはじめのためか,装飾花が淡い緑色を帯びていた.装飾花の数は数個から時には1個のみで,アジサイ属の中では最も地味な部類に入るのではないだろうか.

ヤシャゼンマイ

ず〜っと見たかったシダ.名前を知ったのは大学4年の時で,先輩が「すっきりしててきれい」と言っているのを聞いてからは「憧れの植物」だった.そんなわけで,一目見てすぐに「コレダ!」と分かったのだけど,同行した友人は「別に珍しいもんじゃないやろ」という冷静な答え.確かに渓畔林を調査していたら出てくるだろうけどね・・・.僕にとってはとてもシアワセな出会いだった.思いがけない出会いが一番うれしい.逆に「見に行くぞ!」と気持を盛り上げすぎると,現地で意味もなく空虚な気持になったりして,そこのところのさじ加減が難しい.

とにかく,一番長い間気になっていた,と言っても過言ではない植物を見ることができた.胞子葉を付けたものもあったが,あえてこの写真で紹介した.小葉の付け根が広がるゼンマイと異なり,ヤシャゼンマイは小葉が被針形になる.このため(先輩の言葉どおり)すっきりした印象を受ける.色も彩度がすこし高くて明度が低い緑で,これも好い色.

出会い方はとても大切だと思う.ヤシャゼンマイは良い形で見つけることができて良かった.これがあるから山歩きは楽しい.

キシツツジ

川べりに咲くからキシツツジ.これも分かりやすい名前だ.しかし,キシツツジが健全な個体群を保てるような河川は少なくなっているのが現状だ.河川護岸のコンクリート化は,かなり上流まで進んでおり,キシツツジが定着できるような「でこぼこして少し土壌がたまる岸辺」という環境はそう多くない.けれども,太田川筋を下っていくと,わりと広く分布していることが分かる.

キシツツジももちろんコバノミツバツツジダイセンミツバツツジホンシャクナゲなどと同じツツジ属(Rhododendron)で,花が大きく見応えがあるので,しばしば園芸種として栽培される.そう,岸だけでなく陸上でも育つのだ.キシツツジが岸辺に多いのは,そこにしか住めないわけではなく,岸辺での個体群維持に必要な種特性を獲得して,他の種との競争を避けた結果と見る方が納得できる.陸上に引き上げて観賞するのも良いが,本来の生活史に沿った個体群に残って欲しい.

ヤマグルマ

崩落して水に浸かりながらも,枝を上に伸ばし,咲いていた.この個体が結実することはないが,花粉が運ばれることでひょっとしたら遺伝子を残せるかもしれない.開花している倒木を見ると,いつもその望みに掛けて咲いているように思う.
ヤマグルマという名を現地で聞いた時にはフムフムと思っただけだったが,実はすごく面白い種だ.通常,被子植物は道管と仮道管を持っているが,ヤマグルマは仮道管しか持たないらしい.それってシダ植物と同じじゃないか!ビックリだ.
名前の由来は,葉が枝先に車輪状に付くから.ヤマグルマ科は1属1種.属名のTrochodendronが車(trochos)と樹木(dendron)を合わせた言葉で,ヤマグルマという和名と共通していたので「!?」と思って調べたら,シーボルトが命名者だった.これってやっぱり和名→学名のパターンじゃないだろうか.

ホンシャクナゲ

山に咲く花を見るとワクワクする.それが珍しい花ならなおさらだ.反対に,庭に植えられた花を見てもあまり心が動かない.それどころか,それが山から取ってこられたことを考えると,なんだか疲れる.どんなものでも楽しみ方は人それぞれだけど,自生地に危害を加える人と相容れることは絶対に無いだろう.

ホンシャクナゲも,人に翻弄された植物だ.コバノミツバツツジダイセンミツバツツジと同じくツツジ属(Rhododendron)なのだけど,葉の様子や花の姿は全く異なる.とにかく豪華な花を付ける.そして葉は力強い.

葉陰になっても,樹形が整っていなくても,山で咲く花を美しいと思う.それを殺める行為はさもしく,愚かで,恥ずべきことだ.

コナラ

ブナにだいぶ遅れて展葉・開花するドングリ.八幡では,標高800m以上あたりからブナが多くなるので,まず山の上が緑になり,標高700mあたり(集落のあたり)が新緑色になるのはその1週間後くらいになる.展葉と同時に開花する.開花といっても,花粉を運ぶのは風まかせの「風媒花」なので,花は目立たない.

この個体は自然館の前に植えられたもので,タマキクラゲが付いていた.タマキクラゲは,残念ながら植毒不明.