自由集会「地域の自然を守るために本当に必要なこと」の宿題

大会初日午後に自由集会が開催されました.同じ時間に競合するテーマの集会が無かったこともあり,来場者は約140人(開催者カウント)だったそうです.多い.タイトルが,保全の現場に居る人に対して挑戦的だったことも寄与してるかもしれません.

しかし,最初の2人の講演が大幅に時間超過してしまい,総合討論の時間が取れず,「集会」が成立しませんでした.これは非常に残念であるし,主催者としては来聴者を裏切った形になってしまいました.3人目からは駆け足の発表になるので聞きにくいし,特に最後から2番目に発表した猪谷さんは,時間を気にしながらの発表だったので可愛そうでした.タイムキープを講演者任せにした主催者一同で反省するとともに,「質問への回答と,各自が考える[本当に必要なこと]を掲載したページを作成し,jeconetでアナウンスすること」を約束しました.

以下宿題.

地域の自然を守るために本当に必要なこと,を自分なりの言葉で書いてみると「科学知,または地域に内在する経験知に基づいた合意と,実施主体を伴う複数の具体的な手段.およびその手段を適切なタイミングで投入するコンダクター」となります.

科学知に基づく合意

  • カキツバタ保全のための刈取り手法(井上)
  • 具体的な保全対象種の共有(猪谷)
  • 継続的な理科教育(猪谷)
  • 北広島町レッドデータブック2012(白川)
  • 生物多様性きたひろ戦略(白川)

経験知に基づく合意

  • 盆栽教室を通じた自然観の共有(片岡)
  • 滝登りの禁止(片岡)

実施主体を伴う具体的手段

  • 地域住民による「滝登り禁止」の看板(片岡)
  • カキツバタ保全のための選択的刈取り(井上)
  • 芸北せどやま再生事業(白川)

コンダクター

  • 法規制への対応(井上)
  • 行政と参画団体との連携(井上)
  • (認定)NPO法人西中国山地自然史研究会(白川)

保全の議論が盛んになってきたとき,生態学から保全へのアプローチでは,種生態や生息環境の維持機構を明らかにすることにより,たくさんの具体的手段が提示されたように思います.その後,自然再生事業が進められた時期には,矢原先生が,科学知に基づく合意形成について集会を企画された記憶があります.この辺りまでは生態学の匂いがしますが,経験知に基づく合意や,実施主体の話しになると生態学だけでは追いつかなくなってしまいます.そうなると,コンダクターに求められる資質は生態学の知識だけに留まらなくなり,社会の中に機構として落とし込むためには,他分野の助けを借りた議論が必要になってきます.佐藤哲さん・家中さん・鎌田さんが始めた「地域環境学ネットワーク」のプロジェクトは,なるほどそういうことなんでしょうね.一つの学会の中だけでは,あるいは科学だけでは解決できない社会課題に対する議論をするための場.

宿題はそんなところです.こんなことは,もう多くの人が気付いているのだけれど,今回の集会の旨味は,上記文脈に出てくる要素を丁寧に,そして具体的に示して,総括的に議論するところにあったと思います.理想世界としての保全方針を,現実世界の話しとして示すこと.なので,総合討論が無くなったのは本当に残念でした.聴いてる方はもっと残念だったと思います.

僕の話の中では,コンダクター(ここでは「補助金を投資する行政」)の話しをしました.

森林政策
今の森林政策と今からの方向

この話しは,アンダーユースとオーバーユースを,補助金や規制や税金によってどのようにコントロールするか,という話しです.林産材の利用を進める必要がある現在時点でのgood・better・bestだけど,それらは時事見直されるべきことで,bestがずっとbestではないと思っています.

質問で,都市部との流通が出たけど,資源の問題を考える時に,流通ほど無駄なことは無いと思います.広域流通が始まったことで,地域のホメオスタシスが機能しなくなったと思います.ただし,現代の社会で地産地消を100%実現することは不可能なので,じんわりと,できるところ・やらないといけないところから始めて,広げていく,というのが次善策なんでしょうね.16日の公開講演会ではそんな話しもできる・・・かな.

今回の学会は,自由集会での発表が一つ,公開講演会の司会,ポスター発表(協働発表)が一つ,専門委員会が2 つ.たくさんあるけど,自分の「研究発表」が無いのは寂しい.